お仕事がんばってね

このごろ ほんとう話

 

先日、いつも人間ドックをうけている、病院でのできごとです。

そこは駅前にある、13階だてのビルで、入口のロビーは、大ぜいの行きかう人たちで、終日にぎわっています。そこでじぶんは、イスにすわって、ぼんやりと、会計をまっていました。

そのうち、人々のあいまをぬって、おそうじのオバサンが、するするとモップで、床をみがきにきました。

ありふれた、ごくふつうの光景でしたが、そこでとつぜん、よきせぬイベントが、発生しました。

小学校の、低学年ぐらいの男の子が、トコトコとむこうのほうから、オバサンのちかくまで、走りよってきました。

そうして、えんりょなく、ニコニコえがおで、

「お仕事がんばってね」

と、いいはなったのです。

...病院という、どくとくの、クールで重たい空間が、そこだけいっしゅん、オアシスになりました。...

オバサンはとうぜん、オドロキのようすでしたが、それでもしっかりと、

「あら、ありがとう」

と、へんとうしました。

 

 

少年は、ヤヤはずかしげな表情をみせると、すぐさまバタバタと、走りさっていきました。

オバサンは、ふいうちにより、とめられた動作を、また再開しました。その、うつむきかげんの横顔は、こころなしか、かがやいてみえました。

...一分にもみたない、ささやかなドラマのあと、二人がいなくなったロビーで、色々なおもいが、心にうかびました。

オバサン、仕事中に、はげまされることが、タマにはあるのだろうか...

じぶんには、とうていできない大ワザを、いとも簡単に、やってのけた少年。

あの子はつね日ごろ、こういう活動を、しているのだろうか...

大きくなったら、ぜひとも、政治家になってもらいたいなあ...

...いずれにせよ、彼女にとって、このできごとは、おそらく本日最大の、メインイベントであろうと、おもいました。

そうして、じぶんにとっても、わすれることができない、大いなるプレゼントとなりました。

 

 

 

 

 

 

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